通常学級を生活の基本に個別指導も

 新井春樹くん (埼玉県寄居町、重複障害、車いす使用) は、今年(20134月、寄居町立寄居小学校の6年生に進級した。そして同時に、通常学級から肢体不自由児学級に転籍させることをご両親は選択された。

 春樹くんは、小学校に入学以来、トイレや教室移動など支援員の援助を受けながら、通常学級で過ごしてきた。また、水泳指導などの介助も学校側の責任で行われてきたこともいうまでもない。こうした学校側の努力は、ご両親と町教委、あるいは学校側との何回もの話し合いで積み上げられてきたものである。

 しかし、学年がすすむにつれて、算数などについて個別指導が必要となり、3年生からは週に12回であったが、同校の「ことばの教室」で個別指導を受けるところとなった。支援員は教師でないため、教科指導ができないからである。とはいえ、高学年になってくると、もう少し個別指導の時間が必要ではないかと、ご両親は考えるようになった。ところが、ことばの教室は人数も多く、これ以上個別指導の時間をふやすことは出来ないのだという。

 そこに、昨年8月、特別支援コーディネーターの教師からこんな話が持ち込まれた。現在、同校に併設されている「たんぽぽ学級(肢体不自由児学級)」に在籍している児童が、来年3月に卒業してしまうと、在籍児童がいなくなり、この学級はなくなってしまう。そこで春樹くんをこの学級に在籍させれば、教師を1人確保して個別指導の時間をいまより増やせるのではないか、というのであった。

 「肢体不自由児学級がなくなるからそこへ移籍を」というのは、ご両親の本来の立場ではない。あくまでも通常学級こそが生活の基本と考えるからである。とはいっても、いまの春樹くんの様子を見るにつけ、やはり個別指導の時間をいまより増やすことが本人には必要ではないか、そう考えてご両親は肢体不自由児学級への移籍をきめた。しかし、肢体不自由児学級への移籍は、あくまでも個別指導のための時間と教師の確保のためである。そこをはきちがえて、肢体不自由児学級を学校生括の中心に据えられたのではご両親の考えとは違う。一抹の不安を感じたご両親は、籍は移しても、生活の基本を通常学級におくこともあわせて学校側に要望した。

 今年4月に校長が代わり、こうした親の考えをあらためて学校側に伝えておく必要を感じたご両親は、44日、これらの要望に加えて、学校生活で配慮してもらいたい事柄を「新井春樹の学ぶ権利を保障するための要望書」(内容証明郵便)にまとめて、校長に提出した。

 要望書提出に先立つて、ご両親は、肢体不自由児学級の担任と面談し、基本的な考えや、配慮してほしいことについて伝えたところ、担任は、よく理解してくれたという。そのせいもあってか、後日、校長と要望書についての話し合いがもたれた際にも、校長からはとくに異論もなかった。その後春樹くんは、この要望書にそった配慮のもと、学校生活を送っている。

 要望番は、「権利としての障育児教育」の基本的な考え方とともに、春樹くんの学校生活を支えるための「必要な配慮」について、当然ながら詳細かつ具体的に記述されている。

 その点、いま学校生括を送っている障審児童・生徒の親御さんにとっても大いに参考になると思われるので、以下に紹介したい。

                                 富永 潔

 

 

 

新井春樹の学ぶ権利を保障するための要望書

  私どもの長男春樹(二〇〇一年五月二日生まれ。重複障害・車イス使用)は、本(二〇一三)年四月より、寄居町立寄居小学校たんぽぽ学級(肢体不自由児学級)六年生に在籍します。

 息子は、脳性麻痺の後遺症により両上肢機能ならびに両下肢機能に障害をもっていますが、日本国憲法二十六条「教育を受ける権利」に基づき、今年三月未まで、寄居小学校通常学級に」在籍しながら、週に一、二回でしたが、「ことばの教室」に必要に応じて通級、個別指導を受けてきました。

 私どもとしては、たんぽぽ学級に移籍しても、息子の学校生括の基本は通常学級におき、これまでどおり通級、個別指導を受けるという考えに変わりはありません。

 つきましては、息子の学ぶ権利を保障していくために、学校教育の監督責任者である貴職にたいし、具体的な配慮について要望するものです。

 

        記

 

 一 息子をたんぽぽ学級(肢体不自由児学級)に移籍させるに至った私どもの考えについて簡単に述べます。

 息子は、二〇〇八年四月に寄居町立寄居小学校(通常学級)に就学し、入学と同時に介助員の支援を受けてきました。

 三年生の十一月からは、「ことばの教室」に過一~二回程度通級し、ことばの指導だけでなく、苦手な教科についても個別の指導を受けてきたところです。

 昨(二〇一二)年の夏休み中に、学校側から、「現在、肢体不自由児学級に在籍している児童が来年三月で卒業する。このままでは、在籍する児童がいなくなってしまうので肢体不自由児学級はなってしまう。そこに春樹さんが在籍し、先生を一人付けるのはどうだろうかごという提案がありました。

 「肢体不自由児学級がなくなるから、そこへ移籍を」というのは、通常学殻を基本と考える私ども本来の立場ではありません。しかし、「ことばの教室J への通級ではなく、たんぽぽ学級(肢体不自由児学級)に籍を置くことにより、これまでどおり通常学級に学校生活の基本を置くのといっしょに、必要に応じて個別指導の時間がより多く保障されるならと考え、移籍させることに同意した次第です。

 

 ニ ー般に教育現場では「盲児は盲学校へ、聾児は聾学校へ」という偏見があるように聞きます。

 ご承知のように、「教育を受ける権利」は国民固有の権利です。権利と義務は近代社会においてワンセットの規範ですが、それは一点において異なっています。すなわち、義務がその履行を義務的に果させられるのにたいし、権利は行使するもしないも、またこれをどういう形で行使するかもふくめて権利主体の選択にゆだねられているということです。

 つまり、権利は選択的だといえます。ですから、「教育を受ける権利」とは、そもそも、就学先を選択する権利をふくんでいるものなのです。

 したがって、学校教育法七二条には、「特別支援学校は視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱者を含む。以下同じ)に対して、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずる教育を施すとともに、障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授けることを目標とする」としか書いてありません。

 すなわち、この条文は「特別支援学校の目的」を明記したものにすぎず、障害児はかならず特別支援学校に就学しなければならないなどと、就学するべき学校を義務づけたものではないのです。

 また、日本国憲法は、国民の「教育を受ける権利」を具体的に保障していくために、第一に保讃者の側に「就学させる義務Jを負わせ、第二に、行政にたいしては、その地域の子どもたち一人ひとりの学ぷ権利を満足させるための人的、物的教育資源を整える義務を課しています。学校教育法三八条の学校設置義務がそれです。

 ご承知のように、二〇一一年に改正障害者基本法が施行されました。その教育条項(一六条)では、国および地方公共団体にたいし、「可能な限り障害者である児童及び生徒が障害者でない児童及び生徒と共に教育を受けられるよう配慮」するよう求めています。この条項においてインクルーシプ教育が障害児だけでなく健常児にとっても権利であることが明文化されたわけですが、とくにご注意いただきたいのは、その権利を満足させるような配慮を社会・公共の側に求めていることです。

 したがって、学校生活における息子の障害にたいする必要な配慮や援助は、行政もしくは学校側の責任においてなされるべきであるのは申し上げるまでもないことと考えます。

 

 三 以上申し述べたことを前提にして、以下、私どもの要望する「障害に対する必要な配慮」について述べます。なお、2以下については、これまでもご配慮いただいてきたところですが、たんぽぽ学級に籍を移すにあたり、確認の意味をふくめて、念のため要望としてまとめたものです。

1 学校生活における基本を通常学級におき、必要に応じて通級、個別指導を受けさせてくださいこの点につき、以下に具体的に述べます。

 (1)算数は個別指鞄をお願いします。理科、社会、英語、総合、委員会、クラブ活動については、これまで同様、クラスのみなさんと同じ様に取り組ませてください。その他の教科については、必要な限りで個別指導をお願いします。

 (2)体育については、内容により私どもも病院等での工夫の仕方について指導を受けていますので、担任の先生と話し合いの機会を作っていただければと考えます。

2 登下校については、私どもの責任において行います。

 それ以外の、学校におけるトイレ、教室移動等の介助につきましては、これまでどおり、学校の責任において行ってください。

 さらに教育課程として値づけられている遠足や修学旅行、校外学習、あるいは体育の授業として位置づけられている水泳指導などの際の介助ついては、これまでどおり、学校の責任において行ってください。

3 息子は長距離の移動には車イスを使用しています。教室内の移動は四つ這いで移動しています。長時間、座位の姿勢でいることは身体機能の低下や精神的ストレスが増大するおそれがありますので、それらを未然に防ぐため、休み時間や業前運動、プレイタイムには、できるだけ体を使わせるよう配慮をお願いします。

4 教材のプリントやテスト用紙等は、眼で追う機能が弱いことと、乱視・近視があるため、コピーで拡大するなどの配慮をお願いします。また、クラスでの席は同様の理由で配慮をお願いします。

5 運動会、ハッピーコンサート等については、工夫していただきながらみんなといっしょに参加できるようお願いします。

 学びとは「読み、書き、算」に限られるものではなく、生活そのものが学びだといえます。その学びは通常学級における健常のお子さんとのかかわりや交わりをとおして得られるものと考えます。したがって、通常学級において学ぶ権利をできるだけ多く保障していただきたいと考えます。

 貴職におかれましては、息子の学習する権利について十分ご配慮いただき、健常の子どもたちと共に学び、共に過ごしながら、等しく成長していけるよう応分のご配慮をお願いするものです。


 二〇一三年 四月四日

                                   新井 純一 

                                   新井 史恵

 寄居町立寄居小学校

 校長 関根 宏 様