学区校就学運動のABC


 11月ともなり、いよいよ明年度の就学期を迎えます。今年2月には国連「障害者の権利条約」がわが国でも発効し、地域校への就学が比較的たやすくなったといわれます。しかし、昨年9月の学校教育法施行令の一部「改正」や文科省の「教育支援資料」を見ると、本人・保護者との合意を原則としながらも「最終的には市町村教育委員会が、行政上の役割として就学先を決定することになる」としているなど、権利としての障害児教育という観点からは見過ごすことは出来ません。そこでこの機会にあらためて、わたしたちが運動のなかで培ってきた学区校就学のための要点を確認しておきましょう。

 

       学区校就学にかんする五つのキイ・ポイント

 

 わたしたちは、文科省の障害児分離路線に対置して、地域校就学運動をすすめるにあたっての要点を、「学区校就学にかんする五つのキイ・ポイント」という短い文章にまとめて、その普及につとめてきました。それを以下に引用します。

 

 《あなたのお子さんが障害をもっていて、なお地域小学校を要求される以上は、つぎの五つのキイーポイントを決しておろそかにすることなく行動を起こしていきましよう。

  1.  親としてお子さんの地域校就学を決断したら、そのはっきりした意志を決してゆるがせにすることなく、市町村教委によって学籍が措置されるまで頑張るようにしましよう。これが学区小就学についていちぱん肝要なことなのです。
  2.  就学指導委員会(地域によっては就学支援委員会ともいう)の「就学相談」は、どんなことがあっても断りましよう。すでに学区小就学の意志を固めておられるのだから、「就学相談」など必要ないわけです。
  3.  学区校就学の意志は、就学時健診がはじまる11月初めには、はっきりとした形で表明しましよう。
  4.  交渉相手は、市町村教委の教育長一本にしぼりましよう。学校教育課長とか担当指導主事が出てきたら〝あなたが教育長権限を代行して下さるのですね〟と、そう確認を取ってから話し合いに入りましよう。
  5.  市町村教委が都道府県教委に、親の了解がないのにお子さんの学齢簿の謄本を送らぬようくぎを刺しておきましょう。12月いっぱいに送られてしまってからでは、運動がきわめて困難になります。以上を押さえさえすれば就学は可能です。》

 

 

 

       親が決断するとは

 

 上の「五つのキイ・ポイント」のなかで最も肝心なのが第1項目といえます。まず、そこでいわれている「親が決断する」とはどういうことなのでしょうか。特別支援学校行きをすすめる市教委の担当者に、「いや、ウチでは、学区の小学校に行かせることに決めています」というだけでは、その根拠としては、はなはだ心もとないといわねばなりません。行政の壁を破るには、自分の子どもを地域の通常学級に入れたいと漠然と抱いているだけでは、不十分であり、それを法律論的、権利論的にも正当な権利要求であることを納得し、確信にまで高めることが肝要なのです。

 「義務教育」とは、行政の学校を設置する義務と親の子どもを就学させる義務から成り立っています。子ども本人にとっては、就学することは権利に他なりません。それは日本国憲法の「教育を受ける権利」(第26条)にはっきりと謳われています。

 わたしたちは、ここ40年ばかりの就学闘争のなかで日本国憲法や学校教育法の解釈を通じて、「親(本来的には本人)の学校選択権の法理を導き出してきました。すなわち、近代社会では権利と義務はワンセットのものとされています。しかし、権利と義務ではただ一点において違うのです。義務は納税の義務に見られるように、本人の意志とは別にいやおうなく義務的に履行されてしまいますが、権利というのは、選挙権に見られるように、だれに投票しようと、どの政党にするか、また、投票しない(棄権)ことも含めて権利主体者にまかされているのです。つまり権利は選択的であるということなのです。

 教育についても同様で、「教育を受ける権利」が国民に保障されている以上、地域の通常学級か特別支援学級、あるいは特別支援学校のいずれに就学するかは、本人ならびにその権利代行者である親の選択にまかされているということに他なりません。このような最低限の法理を十分納得し、子ども本人に代わって地域校就学の権利を行使するのだという権利代行者としての強い自覚をもつことが必要なのです。

 そうした確信が形づくられてはじめて、「そのはっきりとした意志を決してゆるがせにすることなく」ということも可能となるといえるでしょう。そして親がいったん意志を固めたならば、お子さんの地域校就学が実現するまで、なんとしてもその意志を貫き通すことが肝心です。それは教育委員会との交渉の全過程を通じていえることなのです。 

 

 

       市教委との話し合いをどうすすめるか

 

 

 2項目から5項目までは、教委の就学事務にあわせて打たなければならない必要な手を4つにしぼって示したものです。

 10月から11月にかけて就学時健康診断が行われます。そこで障害があると認められた子どもの親には、就学指導委員会(就学支援委員会)から「就学相談」のための呼び出しがあります。これに対しては、「ウチでは学区の○○小学校に就学させ、親の就学させる義務を果たす所存ですので、就学相談など一切不要です」とはっきりと断りましょう。「就学相談」は市教委の仕事ではあっても、それを受けることは親の義務などではないからです。しかも就学指導委は、市教委の一諮問機関でしかなく、そこでどんなことが話し合われようと、親の権利行使を妨げる権限など持ってはいないのです。

 すると、誰を相手に意志表示をすればいいのでしょうか。それは、学区小就学についての学籍措置責任者である教育長以外にありません。交渉相手を教育長一本に絞って、お子さんの成育歴や法律的根拠を記した文書(要望書)で申し入れるのか肝要といえるでしょう。口頭だと、後で「聞いていない」などの不要なトラブルにもなりかねないからです。

 しかし、教育長は市町村に一人ですから、いつでも会えるとは限りません。そこで応対に出てきた学校教育課長や指導主事に、「あなたは教育長権限を代行できる方ですか」と確認したうえで話を切り出す必要があります。代行できないという相手に話しても、「上司に相談して後日連絡します」などとなりかねず、話し合いの進展が望めないからです。

 また、先に見た就学指導委員会で特別支援学校が適当と「判断」された子どもについては、学齢簿の謄本(写し)が12月いっぱいに県教委に送られることになっています。就学事務は市教委がすすめますが、特別支援学校はだいたい県立だからです。すると、1月になると県教委から特別支援学校への就学通知が届くことになってしまいます。だからこそ、学齢簿の謄本を県教委に送付しないようクギを刺しておくことが必要となるのです。

 右はあくまでもキイーポイントを示したもので、要求の出し方、話のすすめ方、その他個々の場合についてこれをどう適用していったらいいかなどについては、わたしたちが出している『障害児が地域校に学ぶとき【新マニュアル】障害児の学校選択』(社会評論社、1800円、「実現する会」事務所でも扱っています)をお読み願えると幸いです。また、毎週月、水、金曜日、午後2時半から6時半まで事務局員が就学・教育相談に応じていますので、お気軽に会事務所までご連絡ください。 

 

宮永 潔