噴火はじめた言論封殺の嵐

  

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 5月20日、「朝日」は「所長命令に違反 原発撤退」の大見出しで東電福島第一原発の元所長吉田昌郎(まさお、故人)の「調書」をスクープした。政府が非公開としていた政府事故調査・検証委員会(政府事故調)のヒアリング記録(「吉田調書」)を朝日新聞が入手したのである。この一報は、海外メディアでも紹介された。

 「恥ずべき物語があらわとなった。サムライ・スピリットの手本とはほど遠く、90%の所員は命令に従わず逃げた」(英紙ザ・タイムズ)、「福島の『ヒーローたち』は実は怖くなって逃げ出していた」(豪紙オーストラリアン)。

 「第二のセウォル号事件」と海外メディアで報じていたからか、フクシマ以来、脱原発を表明していた「朝日」だったからか、首相・安倍晋三は激怒したといわれている。

 8月17日、産経新聞が「吉田調書」を入手。翌18日「朝日」批判を展開。「朝日新聞は事実を曲げてまで日本人をおとしめたいのか」(ジャーナリスト門田隆将)を掲載する。

 それから1週間後の8月25日、官房長官・菅義偉(すが よしひで)は、「一部のみを記事にした複数の報道があり、(自分の発言が)『独り歩き』するとの吉田氏の懸念がすでに顕在化している。非公開とすることが本人の意思に反する」として、非公開を一転「第三者の権利や利益、国の安全に関する部分は黒塗りにしたい」と述べ、部分的に公開にする考えを示した。以後、「週刊新潮」をはじめジャーナリズムは、「朝日」批判(というより罵詈雑言)を展開していくのだが、その執拗さは異常である。

 ところでネット検索をしていくと、「日本初、提言型ニュース」と銘打った「BLOGOS」がヒットした。そこに先の「産経」に掲載された門田隆将が6月1日付で書いた一文があった。それには、「吉田調書」を明らかに読んでいなければ書けない文が散見するのである。つまり門田は、「朝日」スクープのすぐ後「吉田調書」を手にしていたわけだ。

 ここで想起するのは、沖縄返還協定の密約を暴露した西山事件(1971年)である。政府が非公開(秘密)としていた内容がスクープされると、その犯人探しが行われてきたのは常套のこと。だが今回は犯人探しが行われていなかった。

 じつは9月8日、国際オリンピック委員会総会が控えていた。その席で安倍は、「汚染水による影響は、福島第一原発の港湾内のO・3平方キロメールの範囲内で完全にブロックされている」とアピールせねばならなかったのだ。さらに秘密保護法が話題になることも避けたかった、と私は見ている。


 

 「朝日」の「誤報」問題にはもう一つのキィがある。それは、「従軍慰安婦狩り」の吉田清治(よしだ せいじ故人)の「証言」を検証せず採用掲載してきたことであった。第二次大戦中、済州島などで朝鮮人女性を軍令で強制連行した告白が「吉田証言」なのだが、この「告発」が「創作」であったと吉田本人が認めている。「朝日」は、十分な裏付けをとらなかった。朝鮮人女性たちを「性奴隷」にした歴史を認めない首相・安倍たち「歴史修正主義者」にとって、これは絶好の攻撃材料となった。そしてとうとう首相・安倍の「日本人の名誉が傷つけられた」発言まで飛び出すこととなる。

 かくて朝日新聞社長木村伊量(ただかず)は、スクープ「吉田調書」を「誤報」とし、「従軍慰安婦狩り」の「吉田証言」もあわせて謝罪したのだった(9・11)。



 ところで、週刊誌の「スキャンダル誇大表現」は、衆知のこと。名誉棄損で週刊誌が訴えられたケースは山ほどある。「産経」にしてもほかの新聞社にしても「誤報」報道がなかったわけではないだろう。「吉田調書」を誇張し過ぎた大見出しや、「吉田証言」の虚偽を認めた朝日新聞社の編集長、社長が辞めてもフクシマが消えるわけではない。「性奴隷」問題がなくなるわけでもない。

 「朝日」の「誤報」問題は、一にも二にも言論機関による言論封殺に及んだことである。これはファシズムへの道である。留意すべき点は、この一点に尽きる。秘密保護法が法制化されれば、「吉田調書」は政府の手で永遠に闇に葬られ公表されることはなかったろう。

 「梅雨空に『9条守れ』の女性デモ」と詠んだ俳句が、さいたま市大宮区の三橋公民館の月報に掲載拒否された(7月)。

 かつて『人権と教育』のインタビューにも応じてくださった金子兜太(かねこ とうた、俳句協会名誉会長、94歳)は、「普通の市民が率直に感じたことを詠んだ句。掲載拒否は言葉狩りだ」「非常に危険。だったら穏やかなものだけ作っておこうと、みんな萎縮しちやう」と怒っておられた。そうなのだ、「みんな萎縮しちやう」風がファシズムなのだ。


 

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 木曽の御嶽山が水蒸気爆発を起こした。紅葉真っ盛りの時期だったから、たくさんの登山者があり、戦後最悪の47名の方が命を失った(10・2現在)。

 火山学者の見解によると、御嶽山の爆発が、3・11東日本大地震の影響かどうかわからないという。地震学者たちは、日本は大地殻変動期に入ったという。ともあれ、いまだに福島、茨城、千葉、山梨に地震が頻発していることは事実であり、私たちは火山噴火にならなければと祈るばかりだけれど、マグニチュード9の大地震の周りではほとんど火山噴火を起こしている。火山は、地震に比べて予想することが難しい。自然相手は、100年、1万年、100万年のスケールだから、予想なんてできるはずもないのである。

 九州電力川内(せんだい)原発が、原子力規制委員会の審査を通った。委員長・田中俊一は、新基準に適合しているが、「絶対安全とは言えない」と言っていた。だが、首相・安倍は。

 「規制委員会が安全」とお墨付けをもらっているのだから、再稼働すると明言している。どちらも責任所在を不明にした、まるで子どもの言葉遊びのような「無責任主義」。南九州には、過去に巨大地震を起こした火山が複数ある。規制委員会や九電は噴火の兆候を監視すれば対応できるとしているが、火山噴火予知連絡会会長・藤井敏嗣(ふじい としつぐ)は、「火山リスクが低いとの規制委員会の判断は科学的根拠に基づいていない」と批判しているのだ。



 『美味しんぼ』バッシング、「朝日」バッシングだけが話題となっているが、東電の記者会見に毎回参加している漫才師のおしどりマコは「公安に尾行されている」といっている。金曜の官邸前、国会前の集会にはおびただしい数の公安が動員されているのは参加者誰もが知るところ。いまや、言論封殺から一歩進んだような感触を私は持っている。

 しかし、菅原文太や吉永小百合といった俳優、講談師の神田香織などなど実に多くの人たちが「脱原発」「反原発」を表明している。10月4日には、日本学術会議も、「核のゴミ」対策があいまいなまま、再稼働を進めるのは「将来世代に対し無責任」だとする報告書を公表したと報じていた(東京新聞)。

 フクシマから3年半。放射能汚染地があるかぎり、「反政府」の人たちは増えるばかりである。言論統制をしようとすればするほど仲間が増えていく。それを教えてくれたのは、日本国憲法である。

            

(2014・10・5)

 サトウ アトム